1.写真事務所を開設する条件
建築には、建築士という国家資格がある。
建築設計事務所を開設する際、建築士の資格を取得した上で3年間お実務経験を経て、管理建築士講習受講が必要だ。
資格を取るだけでも難易度が高いと言われているが、そこからさらに3年間実務経験を積まないと設計事務所として独立できないなんてなかなか大変。
写真家、写真事務所を構える場合はどうだろうか。
写真には、写真技能士という国家検定制度がある。
しかし、建築設計事務所と異なり、事務所開設と国家検定制度の関連性はない。
検定に合格していなくても、写真事務所は開設できる。
つまり、写真事務所開設のハードルは低い。
事務所が開設できるからといって、お仕事ができるわけではない。
やはり写真は腕勝負なので、どんな環境で腕を磨き独立し、お仕事を得ていくかが大切。
一般的に考えられるルートは3つ。
・大学、専門学校へいく
・写真事務所、写真家に弟子入り
・独学
2.大学、専門学校へいく
写真学科のある大学や専門学校へいくのが、王道だろう。
芸術系、デザイン系の大学、学部に写真学科があることが多い。
東京藝術大学、日本大学、東京工芸大学、東京綜合写真専門学校、専門学校東京ビジュアルアーツ等、全国に約35校程度の教育機関がある。
建築写真に限って言えば、建築学科を出て写真家になった方もいる。
教育過程修了時点で写真学科出身者は、写真全般に対する綜合的な知識に優れているのに対して、建築学科出身者は建築を見る目に長けている。
それぞれのベースを活かして、弟子入りや独学によって腕を磨いていく。
3.写真事務所、写真家に弟子入り
どのような仕事でも、未経験から独立や独立してすぐに仕事があるという展開は、よっぽどのことがない限りあり得ない。
写真は場数を踏んで、上手い人から技を盗んで腕を磨くのが手っ取り早い。
その点では、写真事務所に就職するのが最も良いだろう。
人を雇用することができるぐらいの仕事量(収益)があり、腕の良い上司(写真家)がいる。
つまり、場数を踏みながら、上手い人のすぐ側で技を盗める環境だ。
同時に社会人として必要なスキルも経験できて良いだろう。
事務所によっては、最初は撮影できずにアシスタントとして雑務の日々の場合もある。
撮影を任される場合は、基本給と撮影件数による出来高で、給料が決まる事務所もあると耳にしたことがある。
最初から自分の色を出せなかったり、上司と部下というサラリーマン独自の上下関係の面倒なこともあるだろう。
それでも自分で営業しなくても仕事があることや、場数を踏んで経験値を積める環境は、就職する最大のメリットだ。
あえて「弟子入り」と書いたのは、労働時間に対する収入的には厳しい環境も多いので、辛抱は必要かもしれません。
建築業界で、設計事務所に就職する感覚に近いだろう。
4.独学でなんとかする
最後の選択肢は、独学でなんとかする方法。
フィルムで、インターネットも無い時代では、かなり難しい方法だったかもしれない。
しかし、今はカメラ自体がデジタル化され、何度でも練習ができる。
わからなければ、Googleで検索するとお役立ちブログがすぐ出てくるし、最近はノウハウ系のYoutubeも急増しているので、上司に質問しなくてもなんとかなる。
独学の場合は写真技術の他に、仕事を獲得するという営業的技術が必要になってくる。
そこは苦労するだろうが、成功すれば写真事務所では得られない営業スキルが身につくだろう。
もちろん営業といっても、様々な手法がある。
異業種交流会への参加、チラシ配布、メディア掲載など手法は色々あるが、大切なのはブランディングだ。
自身のブランドに合わせた適切な営業手法を用いて顧客を獲得していこう。
このような側面から、独学は苦労するかもしれないが、事業主として総合力が養われるだろう。
5.複業(副業)で建築写真家活動をする
ここまで建築写真家になる方法について整理した。
私の場合は、建築学科を出た後に、独学で学んで今に至る。
そして、私の場合は写真だけで生計を立てていない。
本業は別にありながら、複業(副業)として写真を撮っている。
このようなスタイルになったのは、様々な巡り合わせによる。
好きで写真を続けていたら、様々な巡り合わせがあり、運良く収益化できた。
好きなことでお金をいただけ、とても幸せに感じているし、もちろん責任を持ってお仕事させていただいている。
ここであえて「副業」ではなく、「複業」という言葉を用いているのには理由がある。
建築写真の仕事を、本業に対して別の収入という意味の「副業」と捉えているのではなく、価値の組み合わせによる新たな価値の創造として考えているからだ。
複合的な価値の組み合わせだから「複業」と呼んでいる。
だから私の強みは、写真が上手いことではなく、建築空間を理解し、設計意図を読み取る力だ。
それを表現しきるだけの写真撮影技術は磨いてきたので、今も定期的に依頼をいただいている。
どこで他の写真家と差別化し、自身のブランドにするかによって、その人なりの写真家という姿になれる。
ちなみに、複業(副業)として取り組む場合は、本業とのバランスやスケジュール管理が非常に大切になってくる。
まずは本業でしっかり成果を出すことが求められるので、本業を頑張りましょう。
6.建築写真家になるには
写真事務所は、建築設計事務所と異なり資格がなくても設立できる。
無資格だから簡単というわけではなく、より腕の良し悪しが問われる厳しい世界であるということだ。
建築写真家として腕を磨くには、進学、就職、独学といった選択肢があり、自分にあった環境を選ぶのが良い。
その中で、一人の写真家として仕事を得るには、ブランディングが大切だ。
他の写真家と自分自身の何が違うのか把握し、そこをしっかりと打ち出していくことで、自ずと建築写真家としての道は開くだろう。