1.建築写真・竣工写真で伝えるべきもの
私が撮影する建築写真・竣工写真は、写真家目線より建築設計者目線になることが多い。
意識しているというより、無意識に近い感覚がある。
空間から聞こえてくる設計意図、現場での工夫、クライアントの思い等をつぶさに拾い、「ここから、この構図で撮ってほしいんだな」と空間と対話しながら撮影している。
こう説明しても再現性が無いし、共感も得られないので、なるべく整理してお伝えしたい。
わかりやすく言うと、私が撮影を依頼した設計者の場合に撮ってほしいだろう雰囲気で撮影している。
・HPや雑誌などのメディアで空間を説明できる写真
・空間としての見せ場を写す
・使い方や過ごし方が想像できるような写真
・広さ、開放感など素人にも伝わる気持ち良い写真
・設計者や職人さんの苦労が見える場所をクローズアップ
ざっとこの5点。
これだけあれば、プロ向けも素人向けも対応できる。
そこで使い分ける個別のテクニックが、以前書いたコラムだ。
空間に対して、多くの方が共通認識している物差しとしなる大きさが人なので、人の有無によって、その空間のスケール感がわかる。
その他に、その空間の使い方や過ごし方を伝えることができる。
昔は、建築写真とは人は入れないものとされてきた傾向が強かった。
最近は、人がいて、使い方が見えて、はじめて成立する空間デザインも多くなり、人を入れる写真も増えた。
また、インターネット社会により人間の想像力が衰えたと耳にするようになり、よりイメージしやすくするための手段とすることも多い。
照明を点けるか、消すかも使い分けている。
写真は、明るい所から順番に目が行く特性がある。
写真全体を明るくするには、昼間でも照明を点灯させるのが手っ取り早い。
だから、素人向けのメディア掲載が多い場合は、昼間でも照明全点灯で撮影する。
逆に、プロ向けの場合、昼間は照明を消すことが多い。
なぜなら、昼間照明を点けずに過ごせるよう、開口部を計画しているからだ。
メディア映えよりも、説明的な写真となる。
詳しくは、各コラムを読んでいただきたい。
そして、今回解説したいのが、構図の話である。
2.建築写真・竣工写真の写真の構図
そもそも構図とは、写真の中に被写体をどのようなバランスで配置すること。
そのバランスには美しく見える鉄板があり、三分割、二分割、日の丸、放射線、シンメトリー、S字など10種類程度ある。
建築写真はその鉄板を応用しながら、あおり補正をして垂直水平を保ち、美しく見せる。
ただ、もっと単純に解説すると、建築写真の構図って主に2種類。
建築写真・竣工写真を真っ直ぐ撮る。
斜めに(パースを効かせて)撮る。
3.真っ直ぐ撮る
真っ直ぐ撮った写真を好む人の傾向としては、設計事務所を始めとした設計にこだわりが強い方が多い。
真っ直ぐ撮った写真は静的なイメージが強く、落ち着いた雰囲気に見える。
設計にこだわった人がこの写真を好む理由は、空間構成が説明しやすいからだ。
例えばこの写真。
キッチンの後ろに階段があって、階段に沿って天井は吹抜けで斜めに仕上がっていて、水に濡れるキッチンはクッションフロアーでリビングダイニングは無垢材と床の仕上げが切り替えられていて…
といった感じで、空間構成がとても説明しやすい。
一言で表すと、「理系的で説明的な写真」と言うのが真っ直ぐ撮る写真の特徴。
だから設計にこだわりが強い方は、そのこだわりについて説明したいので、このような写真があると喜ばれる。
4.斜めに(パースを効かせて)撮る
では次に、斜めから撮るとどんなイメージになるか。
斜めから撮ると遠近感のあるパースが効いた写真になり、広さや開放感を誇張表現することができる。
この写真を好むのは、住宅の広告宣伝利用を考えている方に多い。
「20帖の広々、開放的なLDK」なんてフレーズと共にパースの効いた写真を利用すれば、お客さんにはそのまま広々としたイメージが伝わりやすいでしょう。
その他にも、全体的な雰囲気やイメージを伝える力が強い。
先ほど真っ直ぐ撮る事例として紹介した住まいの同じ空間を斜めから撮ってみた写真がこちら。
パッと見で全体像が掴みやすく、広々見える。
これにテキストを合わせると、よりわかりやすくなる。
「1階と2階が立体的に繋がって、開放感や広がりの感じられる心地良いLDK」どうだろうか。
立体感、開放感、広がり、心地良いと言った感情を動かすような情報を伝えるには、このように斜めから撮った写真が適切。
こちらも一言で表すと、「文系的で感情的な写真」と言うのが斜めから撮る写真の特徴だ。
5.建築写真・竣工写真の目的で使い分けよう
まとめると、
真っ直ぐ撮る:理系的で説明的な写真
斜めから撮る:文系的で感情的な写真
「人を入れる、入れない」や「照明を点ける、消す」の話同様、誰に何を伝えるかによって上手く使い分けることが重要。
撮影依頼者が、どんな目的で撮影を依頼してきたのかしっかり確認し、最適な撮影をしていこう。
逆に、依頼側は撮影の依頼目的を明確にすると、写真家との意思疎通が上手く行くでしょう。